凛々しく、可憐な許婚
四年前、といえば尊が大学院で経営を学んでいた頃である。

「私、高校時代、こなはな学園横浜校に在籍していたの。卒業後に大学へ提出する書類を取りに事務室に行ったとき、事務長と話をしている尊さんを見たわ」

うっとりするように井上が尊を見つめた。

「パパから事務長に尊さんのことを聞いてもらったら、尊さんはW大の大学院に在学中で、経営を学びにちょくちょくこなはな学園横浜校に来てるっていうじゃない。将来有望な青年だって太鼓判も押されたらしいわよ」

井上は自分のブラウスのボタンをゆっくりと上から2つ外して胸の谷間を見せ付けてきた。

「私の運命の相手だって思ったわ。だからパパに頼んで婚約したいって言ったのに彼は素性がわからないからダメだって言われて」

こなはな学園横浜校の事務長には、尊がこのはな学園の学園長の息子であることは隠してもらっていた。口の固い彼は適当にごまかしてくれたのだろう。

だからこそ、井上の父親も、一介の大学院生で学校の事務室に出入りするような半端な状態の尊の素性を真剣に調査する価値を見いださなかったと思われる。

井上は更に、尊のシャツを強引に引っ張りボタンを外して胸元を露にさせると、うっとりと唇を寄せようとした。

「やめろ」

「先生だって男でしょ?本当は私に触れたいと思ってる癖に」

井上は尊の手を自分の胸にあてさせた。

「なにも感じない」

「嘘よ。私のこと抱きたいんでしょ」

唇を押し付けようとする井上から尊が咄嗟に顔を背けた。

「嘘じゃない。俺が抱きたいと思うのは咲夜1人だけだ。これまでもこれからも」

「嘘、男なんて考えてることはみんな一緒よ」

「あんたがどんな男と付き合ってきたか俺は知らない。俺は、婚約者がいる男をたぶらかすような女性を抱こうなんて思わないし、知らない女性ならなおさらだ。男はあんたが思ってるほど馬鹿じゃない。感染症のこととか妊娠させる可能性もあるんだ。結婚する相手のことを考えたら、誰とでも寝るなんておれの常識にはない」

井上を押しのけて立ちあがりシャツを整えようとする尊に、床に倒れ込んだ井上がニヤリと笑った。

「どういう手を使っても尊さんを手に入れる。いつまで強気でいられるかしら」

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