主任、それは ハンソク です!

 差し出された名刺よりも、指先に視線が行く。
 ほんのりと載せる程度のネイル。隙無くきれいに整えられた指先に、思わず自分の荒れた手を引っ込めたくなる。

 私に『家を出ろ宣言』したあと、主任はバタバタと打ち合わせに行ってしまった。だから、まさか二人きりで会う羽目になるなんて、心の準備ができてない。

 その時。

「遅いぞっ!」

 背後から、だかだかと歩く音と、雷鳴みたいな声。

「それ、こっちのセリフ。そっちから呼びつけといて居ないくせに、何様ぁ?」

 思い切り不機嫌そうなふくれっ面も、愛嬌がある。よく知った間柄なんだろうか。仕事相手にしては、ちょっと距離感が近い。

 軽口を言い合う二人を後に、私はお茶の用意をしに行こうとすると。

「失礼しまぁ~す」

 乱入してきたのは、人数分のコーヒーセットのおぼんを手にした久住先輩。

「おお、さすがは久住さん。すみません」

 しかも主任の背後に見えるドアのガラス越しには、何やらすごい数の人影。

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