主任、それは ハンソク です!

 遅々として進まない夕飯作りに、少々焦りを感じつつ、やっぱり男性陣のお言葉に甘えて、デリバリーにすればよかったのかもと後悔しきりだ。

「ヨーコさんもぉ、本当にほんっとうにごめんなさぁあああいぃいい……」

 この紗智子さん、……チコたんでいっか。本人もそう呼べと言ってくれたし。
 チコたんは、正直、私はちょっと苦手だ。

 彼女の一見奇抜で大仰な言動に少し引いてしまうけど、実はとっても気配り上手な人。
 この前のランチの時も、私が会話についていけずにいると、さりげなく共有できそうな話題を振ってくれたり、だからと言って久住先輩のような根ほり葉ほりが始まるわけでもなく、面白おかしくエピソードを語りつつも、気が付くとみんなの話題にちゃんと合流できている。

 それはもう、一種の話術のプロか何かと思うほどで、私には到底そんなことはできない。

 でも、本当に私が彼女を苦手な理由は。
 彼女が、主任がこっちに赴任してくる直前まで『育てていた人』だったらしいこと。
 この前のランチの時、カジタツさんがそんな意味深発言をしてきたから、ちょっと気持ちがざわついてしまった。更に、すかさず入った清住さんのフォローがますます私の心を波立たせた。

――だからこの女装マニアのど変態男は、彼女と結婚したんですよ。

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