主任、それは ハンソク です!

 明らかにためらっている私へ、時間がないぞ、と言いつつ主任が一切れ差し出してきた。私はそれを慌てて両手で受け取ると、すかさず口へと運ぶ。

 お見合いの席の冒頭で出された豪華な会席料理は、普段着つけない着物のせいもあったけど、まるで砂を噛んでいるようで全然味がしなくって、飲み込むのもやっとで。結局、ほとんど箸をつけずに終わった。

 だけど、主任と二人で分け合って食べる「イチオシ」は、やっぱりとんでもなく美味しくて、同じサンドイッチでも母がいつも作る苦辛い味のそれを忘れさせてしまうほど、なぜかとても甘く感じた。

                     *

「……あの、これ。もしかして」
「……う、うん。キヨスに、借りた」

 マッドブラックという珍しい色味のスポーツセダンなんて乗っているのは、この辺では清住さんくらいしかいないから、すぐわかってしまう。

 ふと、あの清住夫妻の顔が頭をよぎって、唐突に妙な居心地の悪さを感じる。

 だってこの空間はお二人だけのもので、私なんかが居ていいわけがない。でもそれは、さっきから苦いような渋いような顔付きでルームミラーやサイドミラーを微調整している主任も同じく感じていたみたい。鏡越しに目が合った瞬間、お互い思わず苦笑してしまった。

「そろそろ、出すぞ」

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