主任、それは ハンソク です!
主任の言葉に慌ててシートベルトをかけると、車が滑るように走り出す。
「とにかく、荷物を積めるだけ積む……から」
主任の声が、どんどん小さくなっていく。
清住さんのこの車は、後ろの座席は取って付けたように狭く、せいぜい旅行鞄が一つ二つ乗る程度。期待したラゲッジスペースも正直、広いとは言えなかったし、しかもそこには、清住さんのゴルフセットという先住民が既にいた。
「なんか、これなら会社のバンとかの方がよかったかもしれないな」
主任の呟きが居たたまれない気持ちに拍車をかける。
「アイツも人に貸してくれるなら、物くらい降ろしておけって」
「それは違いますよ。こんな急に家を出なきゃならないなんて、私だって、想像も、してなかったから……」
そう、むしろ車があった事自体、奇跡みたいなものだし。
それに、今の私たちにとって一番重要な問題は、運ぶ量じゃなくて、時間だ。
佐野ご夫妻から、向こうを出るタイミングで主任に連絡が入ることにはなっている。でも、やっぱり何が起きるか分からない。
とにかく家族に見つかることなく、少しでも早く家を出なくてはならない。鉢合わせになれば、きっと私は、物理的にも精神的にも家を出られなくなる。