主任、それは ハンソク です!

 体がにわかに強張っていく。

「大丈夫、うまくいくさ」

 そんな私の気持ちを見越してか、主任が前方を見据えたまま、そう言ってくれたから。だから、とにかくやってみよう、そう強く思えた。

               *   *   *

 ほとんど着の身着のままで家を出た私が、辛うじて持ち出したのは僅かの物。

 何より大事なノートパソコン一式と、それらをひたすら壊れないようにくるんだ数着の衣類。それと、下着類。これらを修学旅行以来使っていないボストンバッグに詰め込んだだけ。

 幸い家族はまだ戻ってきていない。けれど、それだけに焦る気持ちで頭はパニックだし、体も強張って無駄にあたふたするばかり。それでも私にしては、よくやれた方だと思う。

 荷物をひとまず詰め終えて、いざ部屋をでようとした、その途端。

――私、本当に、ここを出るの?

 今の今まで、ほとんど勢いだけで熱に浮かされたようにここまで来たけれど、冷や水をかけられたように、唐突に現実に引き戻された。

 主任は大丈夫、任せてほしいと言っていたけど、さすがにこれ以上は甘えられない。

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