主任、それは ハンソク です!

 一瞬、彼の目が見開かれて、そのまま目を閉じたから、私はそっとそこに紙ナプキンを宛がう。
 ひとしきり拭き終わったけど、まだ目を開けない彼に促されるように。

 今度は自分の唇を、そっとそこへ寄せる。

「……ヨーコさん」

 吐息みたいにかすれた声が、私の唇を直に震わせた。

「さすがにそれは、反則だろ」

 彼はそういうと、私ごとソファに倒れこんだ。



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