主任、それは ハンソク です!

                *  *  *

 彼女、ヨーコさんこと、得野洋子さんは俺の職場の部下だが、今日から結婚を前提とした交際相手になった。

 事務職に埋もれていた彼女のデザインスキルの高さを買って、俺の部署、販売促進部の専属デザイナーへと強引に一本釣りした。

 最初は名前もうろ覚えでしかなくて、俺には逆にそれが不思議でたまらなかった。もちろん、彼女と初めて会ったのも、正直な話、全く思い出せない。俺の記憶をいくら浚っても、見当たらないのだから恐ろしい。

 俺の実家は俗にいう政治屋だ。親父は既に鬼籍に入っているが、死ぬ間際まで総理大臣職にしがみついていた。そんな家だから、人の顔と名前を覚える事は、幼い頃から徹底的に叩き込まれている。頭の中が真っ新な学生時代ならざっと100人はいけた。
 今でも3、40人くらいなら、それなりに頭に突っ込める。俺の特技を強いてあげるなら、これ以外思いつかない。

 そんな俺が彼女を認識できていなかったのだから、驚きと伴に興味を感じたのは必然だ。

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