主任、それは ハンソク です!
むふぅー、と大きくため息を吐く。
席を外したまま戻らない主任を気にしつつ、それでもなんとか指定時間内に色違い3パターンの第1案を仕上げたものの。私はまたしても、呻きにも似た大きなため息を一つ吐く。
職場の机で頬杖を突くなんて本当は行儀の悪い事だとは分かっているけれど、ついそうしてしまうのは、ただいま猛烈に自己嫌悪に圧し潰されているから。
「とく……さーん」
今ごろ、主任は呆れているに違いない。小学生だってできる基本中の基本『人の話をよく聞きましょう』が、大の大人のくせにできてなかったんだから。
「とぉくのぉ、さ…ん」
しかも、金曜日の夜。あれだけしっかり会話して、意思疎通も図れたつもりでいたけれど。帰り際のあの一言『とみた』(そういえばさっきも『とむら』って呼ばれてたっけ)で、やっぱり私は主任に認識されていなかったのかと思うと。
「得野さんっ!」
「は、はいっ!?」
慌てて振り返ると、そこには良く見知った女性、久住先輩が何やら満面の笑みで立っていた。