主任、それは ハンソク です!

 ここは先輩の言う通りにしておいた方が賢明かもしれない。私はおずおずと頭を上げた、が。

「……っえ、えっと、あれ? す、すまん、名前ぇ」

 私の顔を見たとたん、鈴原主任の目がウロウロと中空を彷徨い、さっきまでの勢いが嘘のように思いきり削がれている。

 ああ、またやってしまった。
 私の特技、それは究極に影が薄いこと。

 小学校から今の今まで、学校の担任やちょっと距離感のあるクラスメート、移動した職場の人達からも、私はことごとく忘れ去られている。
 たくさんではないけれど友達はきちんと居たし、仲の良かった人はちゃんと覚えてくれている。だけど、同窓会では必ずと言っていいほど恩師や幹事から、ええと、誰だったっけ? とか言われてしまう。

 得野洋子。

 得野は、佐藤や鈴木ほどメジャーな苗字でもないし、寧ろあまりいない部類だと思う。でも、私の家はこの辺の地主と呼ばれる類だから、地元ではむしろメジャーな苗字だ。

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