主任、それは ハンソク です!

 女性、の一言にまたしても動揺する自分が情けない。
 対する久住先輩は私の動揺に気づくこともなく、わしっとまたひとくち、潰しバーガーをほおばると、せせこましく飲み込んだ。

「土曜日の夜にさ、清州グループとこっちの地元企業との親睦会が駅前のプラザホテルで行われたのは、知ってる?」

 私は頭を左右に振る。
 だよねー、と嘯く久住先輩を見ながら、私はいつも思う。この人は一体、どこからどこまでどうやってこういう情報を手に入れているんだろう。

「じゃあさ、野津さんって、わかる?」
「あの、どの野津さんですか?」

――そういえば、この辺は野津や佐野、津田なんかが多くて、鈴木や伊藤、加藤とかのメジャー処の苗字がほとんどいないんだな。驚きだよ。

 無意識に発した自分の言葉で、ふいに主任と交わしたやり取りが思い起こされる。
 販促に移動してから、まだ一か月にも満たない。それなのに、もう私の記憶の中には、主任がたくさん入ってきてしまっていることに改めて気づかされた。

「ほらほら、ショートボブで丸顔の子。眼鏡じゃない方ね」

< 71 / 206 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop