主任、それは ハンソク です!

「ああ、もういいっ! ちょっと貸せっ!」

 分捕る、というのを体現したように主任がハンカチを私の手から奪い取ると、先の乱雑さとは裏腹に、そっとそれを私の頬に押し当てた。

「嬉し涙っていうのとは違うよな、これ」

 主任が差し出したハンカチには、涙の痕とファンデーションが薄っすらと付いていた。

「昨日から様子がおかしいと思ってたんだ。何があった?」
「なにって……」

 そんなの、こっちが聞きたいくらい。

「どうせ、その寝不足もそれ絡みなんだろう?」

 そうですよ。でも、主任には関係、あるけど、ないです。

「とにかく、今日は少しでもいいから早く上がれ。そんで、ぐっすり寝ろ。早退の言い訳は俺の方で適当にしておくから、心配すんな」

 咄嗟に、私の頭の中で何かが弾けた。

「そんなの、できるわけないじゃないですかっ!」

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