眠れる窓辺の王子様
一章 朝ぼらけの出逢い


 空の端で藍色と橙色がせめぎ合う、まだ太陽が東の空に昇りきらない時間帯。

 薄暗いこの道を、一ヶ月後には中学三年生になる私が使うにしては少し古ぼけている錆び付いた自転車で突き進む。


 今はまだ人気のないこの往来に、ギーコギーコ、シャッシャッ──と私の自転車がたてる、今にも潰れてしまいそうな音がむなしく響いていた。




 はあ、とこぼした息はまだ白い。


 弓が張りつめたような冷たい朝の空気が頬を突き刺し、耳がじんじんと痛む。

 季節はいつの間にか、寒さが残る三月の上旬に移り変わっていた。




 「ああもうッ。当番に遅刻したら絶対に父さんのせいだからね! トイレに新聞持ち込んだ時点で怪しいとは思ったけど、まじで籠りすぎふざけんなッ」



 語尾が荒くなるのも、今日の場合は仕方がないと思う。


 眉根を寄せて険しい顔をつくりながら、今朝からトイレに延々と籠っていた父さんを恨み、低い声で悪態をついた。

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