眠れる窓辺の王子様
勇者の剣も、ハルカがいなければ私は蹴っ飛ばして通り過ぎてしまう。
火を噴くドラゴンも、私ひとりじゃ戦えない。
全部ひとりじゃなかったから、冒険してこれたんだ。
汚くて面倒くさくてくそ喰らえって思うくらい阿保らしい世界で、ぽつりぽつりと「良いこと」が見え始めたのは、ハルカが側にいたからだ。
ハルカが側に居なかったら、世界は真っ黒なドロドロで覆われたままだった。
全然分かってない。
馬鹿だ、ハルカは世界一の阿呆だ。
視界の先に映る星が、しどろもどろに乱れてくるのを、私はどうすることもできないでいた。
瞼を焼くような熱さにただただ顔を顰めて、ハルカのシャツを離すものかと握りしめる。
風に煽られたボートは、星空が映る湖の上を静かに進み続ける。
けれど、結局ボートは月に届かなかった。