眠れる窓辺の王子様
勝手に始めたのはどこのどいつよ、と心の中で悪態を吐きながら、青に変わる気配のしない信号を睨んだ。
「分かった、じゃあ教えてあげるね」
ハルカがそう言った突端、自転車が前後にゆらゆらと動きだし、何事かと慌てて踏ん張る。
振り返って確認すると、どうやらハルカが足をぶらぶらと揺らしていたらしい。
ハルカの背中を肘で突いて「危ない!」と怒鳴るも、当の本人はどこ吹く風で「ルールは三つあってね……」と話し出す。
ハルカといると、一生分の溜息を使い果たしてしまう気がした。
「ルールその一、相手の好きなものを貶してはいけません」
「……それはさっき聞いたっての」
自転車のハンドルに頬杖を突き、適当に相槌を打つ。
「ルールその二、好きなもののことだけを考えます。嫌いなものは考えちゃだめ」
「……ふーん」
「そして最後の、ルールその三。これが一番大事だよ」
はいはい、と聞き流しながしていると、信号が青に変わる。勢いをつけて自転車に飛び乗り、またペダルを漕ぎ始めた。