死にたがりな彼女
火が藁に、女に、押し付けられた、刹那。
叫び声と、炎が恐ろしい速さで燃え上がる音が辺りに響き、それ以上に、観衆の歓声が沸きあがった。
悶え苦しむように叫び声を上げていた女は直ぐに呼吸さえままならなくなり、叫ばなくなった。
舐めるように、炎が女を包み込む。
来ていた布は既に燃え上がり、同時に皮膚を焼き尽くし、髪は中の細胞を火がまるで導火線のように燃やしつくし、どろりと溶け出す皮膚は異臭を放ち、黒く黒く、焼け焦げ、目だけが、生白い目だけが未だに睨めあげていた。
「何か、言ってるわ」
「周りが煩くて聞こえないな」
女の唇は動いていた。
シュウシュウと、やがて本来あったはずの肉や脂肪が燃やし尽くされ、まるで枯れ木のように縮んでいくはずの最中。
女は何かを呟いていた。
ソウェルはその女の口と同じ動きを、して見せた。
「し、ん、で、し、ま、え」
ソウェルはゆっくりと読解したが、女のほうでその言葉は恐ろしい速さで、まるで呪詛を呟くように呼吸さえしているのかわからないほど、くり返しくり返し、呟かれていて、その白い視線の先には司会者が、いた。
司会者は燃えていく女を楽しそうに笑ってみていたが、その女の苦悶の声が止み、ただ何度もくり返し呟かれる、その言葉に気づいたのか、その女の視線から逃れられなくなっている。
普通なら叫び声が止まらぬほどの苦痛。
女はその苦痛以上の憎しみで司会者を燃やした。
段々と司会者の顔が蒼白になる。
段々と女の身体が小さくなる。
段々と司会者の身体が震えだす。
段々と女から異臭が立ち込める。