死にたがりな彼女
その女の手の平に、大きな釘が打ち付けられた瞬間、
「ぎゃあああああああああああ」
悲鳴とも、雄たけびともつかない声が当たり一面に響き渡り、十字架の先端からはおびただしい血液がボタボタと血溜りを作った。
そしてもう片方の手の平、そして、足首も大きな釘で十字架とくっ付けられた。
皮膚を貫き、骨を砕き、筋を傷つけ、血管に穴を開け、釘を打ち付けられた女は自由の利かなくなった身体を動かすことも出来ず、ただ痛みに頭だけを振り乱した。
歓声が沸きあがり、もうすぐで始まる裁きの瞬間を待ちきれずに、一人が、二人が、段々とその声は広がり、一斉に辺りを取り囲んだ。
「死ね」のコール。
まるで何かにとり憑かれたような観衆に、僕たちはただ黙って、女の行く末を見守った。
見守っても、結果は見えていた。
この女の次に、別の女がまた薄汚い布を身体に巻きつけて枷を付けられ自分の番を待たされていることを、僕は知っていた。
女は頭から液体をかけられた。
その液体の匂いは僕たちの元にも届いて、思わず僕は外套(マント)で鼻を覆い隠す。
ソウェルもこの匂いは嫌いなようで、僕の外套(マント)で同じように鼻を隠していた。
「この魔女に、死刑を!」
「この魔女に、死刑を!」
司会者の声に、観衆が一致団結して声を揃えて答えた。
どこからか、松明が運ばれて、司会者がそれを受け取る。
痛みに悶絶しそうになっている女は、ガソリンで目を覚ましたのか、その松明を持つ司会者を睨めあげた。