エリート弁護士と婚前同居いたします
「それでどうするんですか?」

 業務が少し落ち着き、待合室が無人になった隙に瑠衣ちゃんに詰め寄られた。
「何が?」
 現在、受付には私と瑠衣ちゃんしかいない。待合室に散らばった雑誌や子どもたちが放り投げたまま転がっているおもちゃをふたりで片付けている。元々私の姉と侑哉お兄ちゃんのことを瑠衣ちゃんに話していたせいもあり、彼女は状況を私よりもしっかりと整理して理解していた。

「上尾さんとの同居ですよ」
つぶらな瞳が可愛い白熊のぬいぐるみを抱えながら、彼女が鋭く私に問う。
「するわけないじゃない!」
思わず大声が出る。
「ちょっ、茜さん! 声が大きいです!」
 後輩にしかめっ面で注意される。

「ご、ごめん。でもそれはないから。あの人のこと全然知らないし、失礼な人だし」
 首をブンブンと勢いよく横に振って否定する。
「でも本当に美形でしたよね。ここで勤務している女性は茜さんを除いてほぼ全員上尾さんのファンですよ。皆がこの話を聞いたら卒倒しますよ。彼の私生活を聞きだそうと虎視淡々と機会をうかがっているんですから」
 瑠衣ちゃんが物騒なことを言う。
「瑠衣ちゃん、他言無用だからね!」
慌てて後輩に口止めする。

「当たり前です。でも本当に上尾さんのこと知らないんですか? 上尾さんは茜さんを知っているみたいでしたけど」
彼女の言葉に私は記憶を探る。
「知らない。姉からも聞いたことがないと思う」
「貴島先生かご本人に尋ねるのが一番早いですよね」
 考え事をしながらも、手元を正確に動かして片付けをしているあたりが優秀な後輩だ。
「いや、もう関わりたくない」
彼の綺麗な焦げ茶色の瞳を思い出しながら、きっぱり言う。

本当に外見だけは完璧だけど、あの態度はいただけない。
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