エリート弁護士と婚前同居いたします
「だって絶対に私をからかってる。本当に困って同居相手を探しているのに、いきなり初対面に近い状態であんなこと言うなんて、冗談にしてもひど過ぎる」
語気荒く言う私に瑠衣ちゃんが呟く。
「もしかしたら上尾さんは本気だったのかもしれないですよ? 上尾さんの機嫌が悪くなったのって茜さんが上尾さんのことを全く知らない人だって言い切ってからじゃないですか?」
後輩の言葉が胸に刺さる。

え、待って。もしかして失礼なことをした人って私なの? 本当に彼のことを知らなかったのに!
「で、でも! 私はちゃんと謝ったもん」
「渋々でしたけどね」
しれっとすげなく後輩が言う。
グッと返答に窮する。
「……やっぱりそう感じた?」
おおかたの片付けが終わり、受付カウンターに戻りながら彼女に聞き返した。素直な後輩は呆れたように頷く。

どっと脱力しそうになる。
「もう一度きちんとお話を伺ってみたらどうですか? 貴島先生のご友人の弁護士だし、身元は確かですよ。もしかしたら茜さんの救世主になってくれるかも!」
 カルテを手に取りつつ、瑠衣ちゃんがなぜか楽しそうに言う。
「なんで嬉しそうなの、瑠衣ちゃん」
思わず不満の声を漏らす。

「だって茜さんに出会いと同居のチャンスが一気にくるかもしれないんですから!」
右手で握りこぶしを作って意気揚々と言う瑠衣ちゃん。
「こないから! そんなよく知りもしない人と同居なんて無理!」
真っ赤になって否定する。急激に鼓動が速くなる。
「……なんでそんなに動揺してるんですか。ひとつの案ですよ。茜さん、時間ないんでしょ」
 可愛い笑顔を浮かべて、後輩がなんでもないことのように言う。
「それはそうだけど、同居はしないよ、絶対!」
 押し問答のように同じ返事を繰り返す情けない私。

 その時、入口の自動ドアがタイミングよく開き、患者さんが来院した。それからは急に忙しくなり私たちの会話はそこで中断した。
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