叶わぬ恋と分かれども(短編集)
「どこが……どこが良いんですか? あんな人の、どこが好きなんですか?」
「え?」
「だって、だってあの人、スタッフでもないのに突然レジに入って来て包装して……お客さんに買い取りの説明までしてたんですよ? 元スタッフで買い取りのことを知っていたとしても、昔と今じゃあ変更されたところもあるかもしれないのに。それで堂々とお客さんと雑談を始めるんですよ? まるで自分の店みたいに。ああそうか、店長の彼女だから、まるで自分が店長になった気になってるのかもしれません。包装もお客さんとの雑談も苦手な私に、ひけらかしていたのかもしれません。その後私のレジに商品を持って来たので会計の後で注意したら、帰りがけにありがとうってお礼を言ったんですよ? 嫌味にしか聞こえませんよ。それに……それに自分の恋人が働いている店に顔を出すのはどうなんでしょうか。嫌な気分になる人だっているかもしれないのに、そういうことは考えないんですかね? 実際私は凄く嫌な気分になりました。好きな人の恋人なんて見て、気分が良いわけないじゃないですか。そういうことを汲めない人が、店長に釣り合うとは思えません……!」
そう捲くし立てると、店長は白い息をふうっと吐いて長い瞬きをしたあと、じっと私を見据える。
「あの後少し話したら、もしかしたら包装を引き受けたのは迷惑だったかもしれない、って。苦笑してたよ」
「え……?」
「そりゃあ彼女はうちのスタッフじゃないけど、店員をやっていることに変わりはないから。お客さんを長い時間待たせるのは、我慢できなかったんだと思う。時間に余裕がある人や、待っている間に外で時間をつぶしてくるって人もいるけど、店内で待つって人が多いからね。それは包装であっても、買い取り査定であってもね」
「……」
「買い取りのことをお客さんに話したってのは、そんなにまずい話をしてたのかな?」
「……状態が悪すぎたり書き込みがあったりするものは買い取り不可で返すとか、日焼けや折れがあるくらいなら安価で買い取るとか、持って来てもらえば査定だけでもするとか……。ああ、あと買い取り後にアルコール消毒してから売り場に出すって……」
「それくらいなら話しても大丈夫だよ。さすがにパソコンいじって買い取り金額を伝えたり、今後このタイトルを高価買取しますとか言うのはまずいけどね」
「……」
「会計の後にお礼を言ったってのは、嫌味でも何でもないと思うよ。彼女、スーパーでもコンビニでも服屋でもホームセンターでも、どこのどんな店でも会計の後にお礼を言ってるから。『どうも』の日もあれば『ありがとう』の日もあるんだけど、今日は『ありがとう』の日だったってだけだよ」
「……」
「彼女が今日店に来たのは、俺が誘ったからだよ。DVDを大量に買い取ったから見においでって。彼女が最近映画をよく観てるからってのもあるけど、俺がね、ちょっとでも顔を見たかったから、DVDを口実にしたんだ。フライングデートをしたとはいえ、クリスマスだしね」
「……」
「むしろ普段は、恋人の店に頻繁に顔を出すのは気まずいって言って、滅多に来ないんだ。今日はDVDに釣られたけどね。来たのは三ヶ月ぶりくらいかな。来るとしても夜に、お客さんもスタッフも少なくなってからだし。だから嫌な気分になるスタッフがいるかもって気持ちはちゃんと汲んでるんだよ」
「……」