叶わぬ恋と分かれども(短編集)


 そうやって店長は、私が捲くし立てた内容を、ひとつずつ丁寧に、説明してくれた。

 思い返せば、店長の言う通りかもしれない。

 どうして忘れていたのだろう。そういえば最初に包装を待っていたお客さんは、頻りに腕時計を見て苛ついた様子だった。番号札を渡して「出来上がったらお呼びします」と言ったのに、レジ前から離れないで。

 買い取りのことだって、当たり前のことを説明しただけだ。状態が悪いものは買い取り不可、日焼けや折れは値引き。値引きされた商品は値引き理由が書いてあったり、『特価』の値札シールがついていたりするから、安価で買い取られたものだということは、誰の目から見ても明白。汚れた商品をそのまま売り場に出すわけにはいかないから、アルコール消毒くらい他の店でもしているかもしれない。

 ごく少数だけれど、会計のあとにお礼を言ってくれるお客さんも確かにいる。私は言う派ではないし、毎日レジを打っていてもあまり言われないから、びっくりして嫌味に聞こえただけだろう。タイミングも悪かった。苛ついて噛みついたあとのお礼だったから、嫌味だと勘違いしてしまった。むしろ私の不機嫌を汲んで、崎田さんは「どうも」ではなく、より丁寧に「ありがとうございます」と言ったのかもしれない。

 私がこの店で働き始めて三ヶ月、崎田さんを見たのは初めてだった。私が休みの日は遅番によく入っている和奏ちゃんも初めて実物を見たらしいし、滅多に来ていないことが分かる。他のスタッフから、崎田さんの存在や店長の恋人について聞くこともなかった。「頻繁に出入りする店長の恋人」とスタッフに白い目で見られないよう、気を付けていたのだ。

 冷静に考えれば、判断できることばかりだ。それができないくらい私は、動揺し、困惑し、嫉妬し、混乱していたらしい。
 動揺と困惑と嫉妬と混乱は、しっかり見ていた出来事を、全て吹き飛ばしてしまったらしい。

 最初の包装のお客さんも、忘年会の景品用に大量の包装を頼んだお客さんも、崎田さんと雑談をしながら包装してもらったあと、とても嬉しそうに帰って行ったことを。私が今まで見たことがないお客さんの姿だったことを。

 崎田さんは誠心誠意、接客をしていた。包装が出来上がるまでの時間、お客さんが苛つかないよう話を広げた。それを見て、羨ましく思っていたんだった。

 ああ、そうか。急に不機嫌になった大量のCDのお客さん。きっと私が吐いた息を、ため息をついたと思って不機嫌になったのだ。別に大量のCDを購入し、長い時間がかかったことについて吐いた息ではなかったけれど。あのタイミングでするべきではなかった。



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