叶わぬ恋と分かれども(短編集)
「混乱してしまっていたんです。昨日今日のどちらかで、店長にアプローチしようとタイミングを計っていた矢先に、店長の恋人が現れて……」
「そっか……」
「でも恋人がいるって分かっても、どうしても好きだと伝えたかったんです。叶わない恋でも、好きだって伝えなきゃ何も始まらないから……」
言うと店長ははっとして、かと思えばくつくつと肩を揺らして笑い始める。
不思議に思って首を傾げると、店長はこんなことを言い出した。
「たとえそれが叶わない恋だったとしても、好きだったと伝えることくらい許されたはずだ」
「ええ?」
「って、付き合い始めてしばらく経ってから、彼女が話してくれたんだ。何も言えずに離れて五年、ずっと考えていたって。本当にそうだなって思ったよ。最後の最後に、好きだったって伝えても良かったんじゃないかって。そしたらせめて、彼女の笑顔を頭に焼き付けて離れることができたんじゃないかってね」
「本当に……そうですね……」
「だからちゃんと自分の気持ちを伝えた村山さんを尊敬するよ」
やっぱり、店長は優しい。
崎田さんのことをあれだけ貶したのに、怒りもせず、呆れもせず、穏やかに諭してくれる。私の告白に、まず「ありがとう」と言ってくれた。「尊敬する」と言ってくれた。捲くし立てた質問にも、ひとつずつ丁寧に答えてくれた。
店長は自分のことを「どうしようもない男」だと言うけれど、そうは思えない。元奥さんや崎田さんや両親を傷付けたとしても。好きな相手に気持ちを伝えられないまま長い年月を過ごしていたとしても。
やっぱり、私は店長が好きだ。
たとえ可能性が限りなくゼロに近くても、叶わない恋だと分かり切っていたとしても。私はまだ、この恋を完全に捨て去ることができないと思った。
それくらい、大事にしたい恋だった。