愛を呷って嘯いて


「……ねえ、一杯だけ付き合わない?」

「また飲むのか? 本当に酒が好きだな」

「去年沖縄で買って来た泡盛があるんだけどね。お父さんを誘っても、ビールや焼酎やワインに負けて、開ける隙がなくって」

「俺泡盛飲んだことないけど大丈夫か?」

「さんぴん茶のティーバッグもあるから、それで割ろう」

 言いながら立ち上がって、キッチンの収納から泡盛の酒瓶を取り出す。さんぴん茶のティーバッグとグラスの準備をしていたら、彼が「酒豪め」と言って笑った。

「あんまり飲んで、中毒になるなよ?」

「まあ、言うほど飲んでないけどね」

「どうだか。俺いやだからな、おまえが肝臓悪くしたり、中毒起こして入院してるなんて連絡入るの」

「まあ、悪魔で毒薬だしね。気を付けるよ」

 言うと彼が首を傾げたので、こう続けた。

「酒は人を魅了する悪魔である。うまい毒薬である。心地良い罪悪である。アウグスティヌスの言葉だよ」

「ふーん。本当におまえは何でも知ってるな」

 全部あなたのためだよ。もうわたしは、あなたが嫌いな知識が少なくて話も合わない年下のガキじゃないよ、だからわたしを好きになって。言いかけた言葉を必死で飲み込んで「えへへ」と笑った。


 どれもこれも、まだ言うべきではない秘密だ。秘密の罪悪に、お酒の罪悪を上塗りしたさまはまるで、悪魔との契約のようだと思った。
 ただしどれもこれも、心地の良い罪悪なのだ。

 とくとくとグラスに泡盛を注ぎ入れながら、左手で自分の唇をそっとなぞったのを、彼は見ただろうか。






(了)
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