皇帝陛下の花嫁公募

 リゼットなら島暮らしも面白いと思うところだが、公爵夫人もゲオルグも違うだろう。命を絶たれたような気分になっているかもしれない。

「公爵夫人は権力を失いたくなかったし、息子を皇帝にしたかった。彼女の中では皇帝は結婚したり、跡継ぎを作ったりしてはいけなかったんだ。だが、花嫁は公募され、試験が行われ、邪魔しようとしたのに君が選ばれ、結婚してしまった。

 だから、スパイを使って、婚礼の日に隣国が侵攻するように図った。向こうの軍にだらだらと国境付近に居座られ、私は足止めされたせいで、結婚生活を送れなくなっていた」

「そんな企みがあったとは思わなかったわ……」

「最初は私も判らなかったが、向こうが本気でないような気がしたから、おかしいと思った。自分が足止めされていると。それに気づいてから、さっさとけりをつけて、宮殿に帰った。すると、ナディアが毒で倒れた……」

 リゼットはあのときのことを思い出すとぞっとして、身を震わせた。すると、アンドレアスの手がリゼットの肩を抱き寄せた。

「ワインを勧めたゲオルグが犯人というのは出来過ぎだ。公爵夫人とゲオルグには犯行に及ぶ動機がある。しかし、調べてみると、どうやらゲオルグ自身が狙われていた可能性が高い。公爵夫人が自分の息子を狙うはずがない。だから、隣国のスパイがいると感じた。公爵夫人とスパイが手を結んでいるかどうかは、なかなか判らなかった」
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