皇帝陛下の花嫁公募
 リゼットはアロイスと並んで林檎をかじることに、喜びを感じている。皇帝の花嫁を目指しているのに、よくないことかもしれないが、今はこうしていたかった。

 こんな素敵な男性と一緒にいられるのは今だけしかないだろうから。

 リゼットが林檎を食べてしまうと、彼は残った芯を手から取り上げる。そして、自分の分と一緒に、果物を売っている露店の店主に何か言って、ごみが入っている籠に放り込んだ。

「ありがとう。林檎も……それから助けてくれたことも」

 リゼットは髪を帽子で隠しながら、お礼を言った。

 彼とはもう会えない。いつまで帝都にいるか判らないし、いたとしても、そんなにしょっちゅう出歩くわけではないだろう。護衛にはきっと叱られるから、祖父の屋敷から出てはいけないと言われるかもしれない。

 それに、花嫁の試験が始まったら、こんなふうに遊び歩くこともできないはずだ。

「髪を隠すなんてもったいないな」

「もちろん、普段はこんな格好をしているわけじゃないのよ」

「じゃあ、普段の君が見たい」

 そう言われて、リゼットは困ってしまった。
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