皇帝陛下の花嫁公募
 リゼットだって、彼とまた会いたい。普段の自分も見てほしいなんて思ってしまう。しかし、それは本来許されないことだ。

 彼は一介の町人、しかも定職を持っていないような男性なのだ。

 これ以上、彼と関わってはいけない。そう思いながらも、彼とまた一緒に過ごしたいという気持ちも捨てきれない。

「でも……」

「なあ、リゼット。俺がいい加減な男のように聞こえたかもしれないが、きちんと働いている。それに、妻も婚約者も恋人もいない。それだけは判ってくれ」

 つまり、他に女性がいながら、ちょっかいをかけているわけではないという意味だ。それにはほっとした。だからといって、彼とまた会っていいかどうかは別問題だが。

「君はどこに泊まっているんだ?」

 リゼットは迷いながらも、祖父の屋敷のことを告げた。

「そこは知っている。今夜、こっそり庭に忍び込むから、一度だけ会ってくれないか?」

 庭に忍び込む……?

 リゼットの心にロマンティックな気持ちが生まれた。

 月の下で、男性とこっそり会うなんていけないことかもしれない。

 でも……。

「い、一度だけなら……」

 そう答えつつ、頬が熱くなってくる。

 これはいけないこと……。

 判っていても、やはりまた会いたいのだ。
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