MちゃんとS上司の恋模様
須賀主任が初めてN支社に来たときに感じたある種の恐怖感。それを現在も感じて警戒している私としては、あまり彼の近くには行きたくはない。
須賀主任の目に止まらぬよう辺り触りなく仕事をし、日陰にいることに徹していたはず。それなのに何故……
現にこうして彼に名前を呼ばれるのは初めてだ。
(っていうか、私の名前覚えていたんだ……)
特に容姿が優れるわけでもなく、仕事だってずば抜けてできるわけでもないし、そういう目立つような仕事はしていないはず。
おかしいなぁ、と小首を捻りつつ恐る恐る須賀主任に近づくと、彼はフフンと傲慢に笑った。その笑い方はまさしく鬼軍曹と言わんばかりで、心の中でギャァーと叫ぶ。
そんな私の心中など知らぬ須賀主任は、唐突に話を切り出してきた。
「麦倉、お前に仕事を頼みたい」
「なんでしょう?」
顔を引き攣らせている私に彼はもう一度鼻で笑ったあと、隣の部屋を指差す。
営業部の隣の部屋。そこは資料室だ。
今、あの場所は魔窟と化している。資料が散乱していて大変な状態なのだ。
そこですぐさま須賀主任が言わんとしていることに気が付く。
「今は無理です!」
「まだ何も言っていないが?」
ニヤリと意味深に笑う須賀主任に、私は冷静なフリをして抗議した。だが、内心は大慌てだ。