MちゃんとS上司の恋模様


 資料のファイリングも大事な仕事だということは重々承知している。
 だがしかし、今は本当に手が離せない仕事があるのだ。

 それを須賀主任に切々と訴えたのだが、彼は腕を組み静かに聞いたあと、「それでもやれ」と言い放った。

 なんだ、この悪魔。無理だっていうのだから無理なのだし、何よりキチンとした理由も存在する。
 それを無視して「やれ」と命令するのはどういう了見だ。

 私は顔を歪めて、須賀主任に抗議をし続けた。

「ですから! もう少し時間をいただければできます。ですが!」
「麦倉が抱えている仕事、それを他の女子社員に振り分けろ。お前の仕事量が多すぎる」
「っ!」

 痛いところを指摘された。

 確かに須賀主任の言っていることは間違っていない。
 営業部に所属していて事務職を担う女性は五名。それも私より年上の後輩ばかりだ。

 半年前までは私が一番下っ端だったのだが、一人また一人と寿退社が続き、私を除く四名が他の部署より異動になり、総入れ替えになったばかり。

 先輩方がいた頃に比べると、明らかに仕事をこなすスピードは遅くなっているし、内容も劣ってしまっている。
 仕方がないと言えばその通りだし、時間が経てばまた以前のように仕事がスムーズにいくことは予測できる。だからこそ、少しだけ時間が欲しいのだ。

< 13 / 182 >

この作品をシェア

pagetop