MちゃんとS上司の恋模様
「無理かどうかは俺が決める」
「な、な、なんて横暴な!!」
思わず上司に食ってかかってしまった。慌てて手で口を押さえたが、声になってしまった言葉は取り消せない。
彼は本社からN支社に寄越された刺客だ。それも初めてこのN支社営業部に主任としてやってきた日に『関わってはいけない人』だと本能が察知したのに……
大人しく、とにかく須賀主任の目に付かないように細心の注意を払って仕事をしてきたというのに、すべて無駄になってしまった。
内心冷や汗をかきまくっている私に、須賀主任は意地悪な笑みを浮かべた。
「今さら隠しても無駄だぞ?」
「は?」
確かに今さら口を押さえたところで、言ってしまった言葉は取り消せない。
そう思っている私に、須賀主任はニヤニヤ笑ったあとに首を横に振った。
「今、麦倉が猫を被っていることは知っている」
「なっ……!」
「N支社の営業部に麦倉あり、そう聞いているぞ?」
「なんですか? その大物感溢れた噂は」
私はそんなふうに言われるほどたいした仕事はしていない。
もしかしたら、一見褒められているように感じるが、実はその逆。
N支社営業部には麦倉っていう勤続年数だけ長く役に立たない事務員がいる。それがまた使えないなんてもんじゃない。
そんなふうに影で囁かれているのだろうか。それはあんまりだ。