MちゃんとS上司の恋模様




『お疲れ様、麦倉さん』
「お疲れさまです!」

 優しげな声色に、思わずウットリとしてしまう。

 営業部二課の藍沢史貴(あいざわふみたか)さん、三十歳。なんでも須賀主任とは同期という間柄なんだそうだ。
 藍沢さんは本社で新人研修を終えたあと、N支社に配属になったらしい。

 藍沢さんはN支社人気男性ナンバーワンという存在だ。
 今、私の心の大半を占めている人でもある。

 とても人気のある人だ。私がその人の隣に立つことは到底無理なことだということは百も承知である。
 だけど、憧れに似た好意を抱くぐらいはいいんじゃないかと思う。それぐらいは許してほしい。

 そんな淡い恋心を抱いている相手なのだ。電話ひとつで胸がときめいてしまう。
 ドキドキして声が上擦ってしまうのも致し方ないことだ。

 顔だってきっと真っ赤になっているはず。
 内線ひとつでこの調子なのだから、本人を目の前にしたら挙動不審になるのも仕方がないことかもしれない。

 現に藍沢さんがこの課に来ると、私の心臓は壊れてしまうんじゃないかと思うほど大きく高鳴ってしまう。

 そんな私を見て、藍沢さんは「この子、大丈夫かな?」なんて思っているかもしれない。
 そう思うから尚更平常心を保ちたいところなんだけど、藍沢さんの前では緊張してしまい、どうにもこうにも普段通りの自分を出せない。

 残念すぎる自分自身にため息が零れてしまう。

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