MちゃんとS上司の恋模様
『麦倉さん、先日二課から資料ファイルをそちらに回したと思うんだけど』
「あ、はい。そのファイルは今、須賀主任が持っています。須賀主任に代わりましょうか?」
内線のボタンを押そうとすると、電話口の藍沢さんは『須賀の所にあるなら大丈夫』と私を止めてきた。
『あとで須賀に言っておいてくれるかい? 終わったら二課まで持ってきてくれるように』
「はい、わかりました!」
元気よく返事をする私に、藍沢さんはクスクスと軽やかに笑った。
その笑い方さえも、格好よく聞こえる。
熱に浮かされている私に、藍沢さんは優しい声色で言った。
『いや、訂正しようかな』
「え?」
驚いて声がますます裏返った私に、藍沢さんは楽しそうに言った。
『麦倉さんが二課まで資料ファイルを持ってきてくれないかな。忙しい?』
「大丈夫です。そんなことでしたらお安いご用ですよ」
訂正なんて言い出されたものだから慌てたが、聞いてみればなんてこともない。
それに私としても願ったり叶ったりだ。
資料ファイルを手渡す。そんな名目があるのなら、堂々と藍沢さんに会いに行くことができる。
思わずグッと拳を握り、ガッツポーズをする。
浮かれている私に、藍沢さんは心臓に悪いことを言い出した。