不器用な彼女
チャイムが鳴るのを今か今かと待ち、せめてものお詫びと簡単な食事を用意する。

明日の弁当にと解凍しておいた豚肉を野菜と炒め、冷蔵庫にとっておいた切り干し大根をレンジで温める。ネギと出汁がタップリ入った玉子焼きを焼き上げたところでチャイムが連打された。


「社長!ごめんなさい!」

「この、ど阿呆」

心なしか、“ど阿呆”が優しく聞こえる。

「鍵、ほれ、頂戴」

鍵を受け取ったらすぐ帰る気で居るのか?
社長の事だから、わざわざ自宅の鍵を取りに来てくれたのはこんな時間に詩織を一人で出歩かせない為の配慮なんだろうと思う。

「あのぅ…お腹空いてませんか?」

「空いてるに決まってんだろ!お陰で弁当冷めたわ」

「ご飯…食べて行きませんか?お詫びと言ってはおこがましいかと思いますけど」

「……マジ?」


社長が自分の家で野菜炒めを食べている。何とも不思議な光景だ。

「あんまり見るなよ。食いづらい」

「あ…スミマセン…。あの、ビールならありますけど飲みますか?」

「俺、車で来てんだわ」

「…そうですか」

「帰っちゃうんですか?」「泊まっていきませんか?」なんて思っても言えない。

社長はペロリと完食する。

「ご馳走さま。美味かった」

自宅の鍵をスーツのポケットに突っ込み、車の鍵を指先に引っ掛けてソファーから立ち上がる。

「あの!本当に…お手数おかけしました」

「全くだ。でも、…また飯作って?」

社長はポンポンと詩織の頭を撫でると玄関に向かった。


















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