不器用な彼女
昨夜、甘く激しい夜を過ごしたからかポンポンだけでは物足りない。

「…どした?」

詩織は無意識に社長のスーツの裾を引っ張っていた。

「いや、あの、…何でもないです」

慌てて手を離し俯く。
自分の心の表れに恥ずかしくなる。


「今の、“帰って欲しくない”って意味に取れるけど?」

ニヤリと笑った社長が詩織の顔を覗き込む。

「いや、あの、社長もお疲れでしょうし…何でもないです」

こんな時、自分の背の高さと社長の背の低さ?が恨めしい。赤くなった顔を見られてしまう。

「お前は俺の何だっけ?」

「え?何って…」

「彼女じゃねーの?
全く…俺は彼女のワガママも聞いてやらないような頼りない薄情な男に見えるのか?

…言えよ、思った事は口にしてくれないと分かんねーよ?」

社長は詩織を真っ直ぐ見つめて、少し意地悪そうに微笑んだ。

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