不器用な彼女
心臓がバクバクしてる！
鞄をギュッと握りしめた手は汗でびっしょりだ。

膝が震えて足がもつれて派手に転ぶ。
擦りむいた両膝から真っ赤な血が流れ、目からも涙が流れる。

膝が痛いのか心が痛いのか分からない。

（社長…結婚してるなんて…聞いてない）


想いが通じて、愛し合って、幸せだと思っていた日々は嘘だったんだ。

奥さんを抱いた手で私に触れたんだ。
奥さんと寝ているベットで私も抱かれたんだ。

そう思うとまた強烈な吐き気に襲われてその場で胃の中身を全て吐き出した。


「お嬢さん、大丈夫？」


顔を上げると心配そうに覗き込むお爺ちゃんが居た。

「そこの角を曲がると私の医院があるんだ。怪我の処置をしよう」

お爺ちゃんは白いハンカチを詩織に差し出す。
詩織はお爺ちゃんに黙って着いて行った。






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