不器用な彼女

選択の時

金曜日、恐怖を抱きながらも産婦人科に行く。

ドクターは産むのが前提と言うような口ぶりだ。

「おめでとうございます」と言われて戸惑ってしまう。

「妊娠8〜9週ってところですかね。これからの成長を見てから予定日がハッキリするかな」

エコーの結果そう告げられる。エコーに映る我が子はまだ6センチくらいだというが、既に人の形をしている。ティディベアのようだ。その姿が可愛くて、ただただ愛しいと思った。

会計時、「ケトン+なので…月曜日また来てもらえます?あと、母子手帳、区役所で貰って来て下さいね」なんて言われて、そのまま区役所に向かう。

待ち時間は退屈だ。
いつもだったらネットニュースを見たり、友達とラインをしたり、ゲームをしたりで時間を潰すのに。
昨夜から携帯の電源は切りっぱなしだ。
電源を入れたら…電話が掛かってくるかも?ラインが入ってるかも?なんて考えると電源を入れられずにいる。

真っ暗な画面に映る自分の顔がやつれて見える。
思い返してみたらここ何週間か、胃の調子が悪くて食欲も無かった。お酒は飲めていたからあまり心配してなかったし、飲みすぎて胃もたれしている程度だと思っていた。

そんな事を考えていたら名前を呼ばれた。



受け取った母子手帳は…黄色の表紙に可愛いキャラクターの絵が描いてある。
可愛らしく幸せが溢れたその表紙をめくる事が出来ず、病院で貰ったエコー写真を隙間から手帳に挟むとグッとカバンの底に押し込んだ。

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