不器用な彼女
「ケーキ食ったら寝ろ」

詩織は嬉しそうにケーキの蓋を開ける。店員が付けてくれたフォークを使わずケーキに直接噛み付いている。


「社長も食べます?なかなかイケますよ?」

口の周りにチョコクリームをベッタリ付けている。

「櫻井…口の周り!子供か!」

「えー」

詩織は細い指で口の端を拭うとペロペロと指を舐める。トロンとした目、指を舐める舌の動き、艶やかな唇…今までに見た事がない詩織の“色気”を目の当たりにする。

「…なんか、珍しく…色っぽいじゃん」

(俺、何言ってんだ???)
自分の発言に自分で驚く。詩織は目をまん丸にしてすぐにまたニッコリと笑った。

仕事を淡々とこなし、滅多に笑った顔なんて見た事がない。椎名に指導を受けたら素直に聞き、無茶振りには感情ダダ漏れに顔をしかめて無言の抗議をしてくる。抗議には気付かない振りしてるけど。

だから、今日の“ニッコリ”は心に効いた気がする。こんな風に笑うのかって、軽く衝撃を受けた。

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