不器用な彼女
「何かあったのか?…仕事が嫌か?…木村と喧嘩したとか?
…それとも…俺が何かしたか?」


静かな、穏やかな口調。
こんなモノの言い方、社長らしくない。

「櫻井!このアホ!」「バカ!」「働け!」といつものように怒鳴られた方がまだ楽だ。


「…何にも…ありません。…この仕事も大好きです」

それ以上何も話さない詩織に社長もお手上げだ。



「プライベートで悩みでもあんのか?」

社長に話せる訳がない。



心が苦しい。

事務所で他愛ない話をしている2人を見るのがツライ。社長が先輩に優しくしてるのを見るのがツライ。失敗ばかりして社長の力になれない自分にも嫌気がさしていた。

『好き』には辛く苦しい事もあると知った。




「俺じゃ役に立たない?」

詩織が何も話さないから、終いには「金か?」なんて言ってる。

「プッ!」

泣きそうだったのに思わず吹き出してしまう。






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