やさしく包むエメラルド
「あ、じゃあ、啓一郎さんを除いたわたしたち3人でしりとりしませんか?」

山道だからラジオも入らず、なかなか会話も弾まない。
啓一郎さんを巻き込むのは危ないから外れてもらって、少しはおばさんの気を紛らわしてあげたい。

「わたしから行きますね。しりとりの“り”から……“リンスインシャンプー”はい、おばさん。“ふ”でいいですよ」

しりとりとは不思議なゲームで、やる気がなくてもお題を振られるとつい考えてしまうものだ。

「“ふ”……“双葉”」

「おじさん、“は”です」

おじさんは困ったように一瞬振り返ったけれど、何も言わず付き合ってくれた。

「……“ハト”」

「わたしですね。“と”……“吐血”」

「“つ” ……“積み木”」

「おじさん、“き”ですよ」

「……“キツツキ”」

「また“き”か。じゃあ、わたしは……“危険思想”」

「“う”……“海”」

「……“道”」

「“痴漢冤罪”」

「“い”……“イス”」

「……“スイカ”」

「“肝機能障害”」

「“い”……“石”」

「……“白魚”」

「“老いらくの恋”」

「“の”が入ったらダメだろう」

おじさんから冷静な指摘が入る。
“老いらくの恋”はこれでひとつの単語だと思うけど、これは楽しむためのゲームだから引き下がっておこう。

「そうですね。じゃあ、“踊り念仏”!」

「小花~~~っ!!」

行く先を凝視したまま、力の抜けた身体を支えるように、ハンドルにもたれかかっている。

「なんですか? 啓一郎さん」

「“踊り念仏”ってなんだよ」

「わたしもうろ覚えなんですけど、確か一遍上人が全国を回りながら広めた教えで……」

「そうじゃなくて、」

啓一郎さんは何かをこらえながら必死に前を向いている。

「そのしりとり、むしろ危ない」



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