やさしく包むエメラルド
おいしそうなお茶菓子(売店で好評販売中)を楽しむ間もなく夕食の時間になり、そろって食堂に降りた。
おじさんとおばさんが並んで座ったので、向かい側に啓一郎さんと並んで席に着く。

「わー、わたしのときよりずーっと豪華!」

まぐろ、サーモン、鯛のお刺身。
銀ダラの照り焼き。
茶碗蒸し。
ナスと大葉とえびと舞茸の天ぷら。
ひとり用の鍋の中には鶏つみれやお豆腐、きのこなどが入った豆乳鍋がろうそくであたためられている。
さらにこれからステーキ肉とお蕎麦、デザートのフルーツが控えていて、希望により白ご飯かおにぎりもつく。

「食べ切れるかなあ?」

「食べ切るつもりだろ、小花は」

日本酒のメニューを眺めてビールを待つ啓一郎さんに、そっと耳打ちする。

(食後のケーキまで考えてるんですよ)

(だから、それも含めての話だよ)

おじさんと啓一郎さんのビール、おばさんとわたしの烏龍茶が届いて、みんなグラスを持ち上げた。

「……………」

「……………」

「……………」

「……………」

乾杯するポーズのまま全員黙って誰かが発言するのを待っている。

「……………啓一郎さん」

「……………」

「ここは啓一郎さんですよ」

「小花に譲る」

「はあ!? わたし完全なる部外者ですから!」

「そんなことは関係ない。向き不向きの問題」

「小花ちゃん、」

主賓であるおばさんがしびれを切らして言う。

「小花ちゃんにお願いする。啓一郎やお父さんにやらせたら、いつ食べられるかわからないから」

「……そうですか? では、ご指名ですので簡単に」

ものすごく居心地が悪いのだけど、もぞもぞ姿勢を正して気合いを入れた。

「おばさん、お誕生日おめでとうございます。これまでもたくさんいいことも悪いこともあったかと思いますが、こうして還暦を迎えられたことは本当に素晴らしいことだと思います。これからも健康で幸多い人生が長く続きますように! かんぱーい!」

「乾杯」

「乾杯」

「ありがとう!」
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