明治、禁じられた恋の行方

その準備は着々と進み、
当日を、迎えた。

正隆は、首相からの表彰前に、珍しく緊張していた。

先程絵画の中身も確認した。志恩も笑顔で会場の端に立っている。

新聞社、雑誌、様々なメディアの記者が押しかける会場の中、
表彰式は始まった。

何の滞りもなく、進行されていく。

そして、絵画の公開の瞬間が訪れた。

「では、実際の絵を開けて頂きましょう!」

司会者が明るくここ一番の声を出す。
何人かが、箱を囲み、
記者たちがカメラを構える。


ドサドサドサッ!!


そこから出てきたのは、大量の粉袋だった。

「これ・・・は・・・?」

司会者の戸惑いの声が響き、会場はどよめく。

「阿片・・・?」

その声を出したのは、あの、飯田だった。

「阿片だと!?」
「近衛さん、どういうことですか!!」

写真はおやめください!!と叫ぶ司会者にも止められない勢いでフラッシュが炊かれる。


正隆は、
その場で放心したまま、動かない。


八神さん!あなた責任者ですよね!
どういうことですか!!
押しかけて来る記者に応えようとした、その時。


「志恩・・・!」


押し寄せる人の波をくぐり抜けて、小さな身体が飛び込んできた。


「千歳!?」


倒れ込む細い身体を抱きとめる。

なんで、

そう呟く志恩に、千歳は息を切らし、涙を流しながら答えた。

「高倉さんが・・・!」

あいつ。粋なことをしてくれる。
苦い笑いを浮かべる。

このままだと千歳も記者に取り囲まれる。
急いで外に出さないと。

でも・・・

ありがたい。

ぎゅぅ、と千歳を抱きしめる。

記者のうるさい声が聞こえなくなったようだ。


「千歳・・・泣かないで。」

なんでこんなこと、あなたはしなくていいのに、
胸をドン、ドン、と叩かれる。


「千歳。千歳、聞いて・・・」



涙の流れる頬にキスをする。


「千歳、愛してる。」


頭、額に唇で触れながら囁く。


「本当は、別の奴と幸せになってって伝えるべきだけど、」

ごめん、

「俺が幸せにしたい」

どうしても。


絶対に帰ってくるから、待ってて。


最後に耳元で囁かれたのを最後に、志恩は千歳を突き放した。
飯田がその身体を受け止める。

「志恩!!」

駄目ですよ、そう言って飯田に身体を抑えられる。
志恩はこちらを見て優しく微笑んだ。

「儂は何も関係ない!!あいつがやったことだ!!」

叫ぶ正隆とは対象的に、
志恩は微塵も抵抗せず、警察に連れて行かれた。


「志恩!!!」


千歳の叫び声は、その喧騒にかき消された。
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