太陽と臆病な猫
それは、お気に入りを意味する
幸が学校から家に帰ると既に家庭教師は部屋で待機していた。そして幸を見るや否や、「遅いよ!」と叱りつけた。
「一分一秒の時間の無駄が後になって響くんだからね!」
「ごめんなさい……」
「はい! 教科書開いて! 今日はどこやったの!」
それから間もなくして授業は始まったのだが、幸の頭からあのキスシーンが離れず、思うように集中ができない。何度も注意をされつつも家庭教師が説明する声は幸の耳を抜けて行った。
「はい、じゃあ今日はおしまいね」
「ありがとうございました」
「幸? 今日は集中できてない様に感じたけど、何か学校であったの?」
帰る支度をしながら、ふと幸に尋ねると、幸は耳まで真っ赤にして、「いえ! 何にもないです!」と口元を隠した。

「そう? 何かあったら言ってね? 一応、幸の従姉妹なんだから!」
「ありがとう……沙耶(さや)お姉ちゃん」
教師と生徒の関係が解けて、ふと和み出す空間。従姉妹同士の二人は授業が終わるとこうして少し雑談をする。親同士も仲が良く、教師を目指している彼女の教え方は正直学校の先生よりもセンスが良かった。

「じゃあ、次はいつ教えに来ようか?」
「んー……希望を聞いてもらえるなら」
迫り来るテストに備えて希望を出すと、沙耶は「オーケー!じゃあ月・水・木ね!今度は遅れないでよ?」とスケジュール帳を開いて指定した曜日に丸をつけた。
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