太陽と臆病な猫
「沙耶ちゃん。雨降ってきたよー?」
ふと母親の呼ぶ声がして、沙耶は「嘘!」と窓の外を見る。
「あちゃー……土砂降りだわ……ゲリラ豪雨かなぁ?」
「傘貸すよ。これ以上酷くならないうちに帰った方がいいんじゃない?」
揃って窓を見ていると、沙耶は外を歩く人に目を止めた。「ねぇ……あの人すっごいずぶ濡れじゃない?風邪引かないかな?」
「どれ?」
沙耶が指を指す方向にはどこかで見たことのある人物が雨に打たれながら歩いていた。
「佐古先輩!?」
「え? 知り合いなの!?」
「同じ学校の先輩!!」
そう言い残して幸は慌てて下に降りていき傘を一本取ると、佐古の方へ駆け寄った。
「佐古先輩!」
「あ、よう」
「よう。じゃないですよ! びちょびちょじゃないですか!」
「あー……図書室で本読んでたら、この時間になっててさ、帰ろうと思ったらこの雨。ツイてないよなぁ」
「これ、今更ですけど傘! さして行ってください!」
ずいっと傘を押し付けながら、幸は佐古を見上げた。高い背、長い睫毛、透き通る瞳。やっぱり佐古先輩は全てが綺麗だった。幸はそう思い、暫く二人は見つめあっていた。
その空気を破ったのは沙耶だった。
「ちょっと! 大丈夫!? 君、幸と同じ学校なんだって?」
「はい。佐古 優雅と言います。幸君よりも二つ上なんですけど……」
「高校一年生がなんでこんなところほっつき歩いてるのよ!親御さんも心配するでしょ!?」
沙耶が説教を始めると、優雅は「そうですね……早く帰ります」と傘を差して「傘借ります」とお辞儀をして歩いて行った。
「もう!あの子は不良予備軍だわ!」
「図書室で本、読んでたんだって」
「こんな時間まで!?」
「さぁ……」
沙耶と幸は優雅が歩いていく姿を遠くなるまで見つめていた。
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