夏が残したテラス……
「ごめんなさい…… どんな素敵な物でも、私は受け取れない……」

 その事葉が高橋くんを傷つけたと思う。
 だけど、それが正直な気持ちだった。


「いいんです。謝らないで下さい。奏海さんは、どんなに辛くても悲しくても、きっと海里さんの側にいるんでしょうね。
 それが分かったから…… どんなプレゼントも、奏海さんをあんな幸せそうな顔には出来ないんだなって……」

 高橋くんは、テーブルに置いてあった鞄を持ち上げた。


「本当にごめんなさい…… でも、ありがとう…… きっと、高橋くんからのプレゼンで幸せになれる人が居ると思う。こんな事しか言えなくてごめんなさい……」


 高橋くんは、鞄を肩にかけると店のドアへと向った。


「奏海さん、俺、来年はもうここへはバイトに来ませんから」


「えっ?」


「俺、そんな出来た人間じゃないんで。来年の夏までに次のバイト見つけて下さいね」

 振り向いたた高橋くんは、悲しそうな目ではなくニコリと笑っていた。


「うん。わかった」

 私には、また来年もなんて言えないし、言ってはいけないと思う。


「お世話になりました。お元気で……」


「高橋くんも元気で……」

 私は、精一杯の笑顔を向けた。
 他に何が出来たといいうのだろうか? 
 何を言ったところで、高橋くんの気持に答える結果にはならない。
 それなら、せめて次に会う事があれば、笑顔で会いたい。


 高橋くんは、深々と頭を下げ店を出て行った。


 夏の終わりは少し淋しげで、いつもの夏の終わりと少し色を変えていた。
< 103 / 175 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop