夏が残したテラス……
俺は、受付からまだ数メートル先にある社長室のドアに向かう兄貴の後に続いた。

「お前、社会人なんだから、もう少しわきまえろよ。平社員が普通ここまでは来ないぞ」


「ああ、分かっている。今、考えがまとまったんだ」


「はあ―」

 兄貴は大きく息を吐いた。


 社長は俺を見ると、驚いたような顔をしたが、直ぐにいつもの冷静な目に戻った。


「海里か、めずらしいな。お前が来るときは、何か起そうという時だけだからな……」

 そう言われても仕方ない。俺は、入社してから、個人的には一度も社長に会っていない。やはり、俺は父が苦手だ。


「すみません。実は、お話したい事がありまして」


「うむ― だったら、段取りという物をちゃんと踏め。で、どう言った話だ」


 社長に促され、兄貴と俺はソファーに座った。

 取りあえず、話を聞いてくれようとしただけマシだ。まあ、兄貴が居るからというものもあるだろう。俺一人じゃ、無理だったかもしれない。俺は、父にとってその程度でしかいないのは分かっている。

 俺は姿勢を正し、社長である父親と向かい合った。

「リゾート開発部への異動をお願いします」


「はっ?」

 父より先に、兄貴の方が反応した。


 父親は、特に表情を変える訳でもなく、黙って俺の方へ目を向けた。

 俺は、続きを話していいものと理解した。
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