夏が残したテラス……
その日は、梨夏さんの命日だった。
 どんなに忙しくても、この日を忘れる事はない。それだけ、梨夏さんとの約束は俺にとって大きな物だった。 

 お墓の前で、それぞれ手を合わせる、

『梨夏さん、俺、あのリゾートホテルを買い戻します。俺、ちゃんと奏海のそばにいますから……』

 梨夏さんが、聞いたら何て言っただろう? 
 驚いただろうか? 

 梨夏さんの笑顔を思い出しながら想像した。
 いや、梨夏さんはこうなる事を分かっていたんじゃないだろうか? 
 根拠は無いがそんな気がして奏海へ目を向けた。


 奏海は、手を合わせ目を閉じたままだ。横顔からでさえ、深いか悲しみが伝わってくる。

 まだ、梨夏さんが笑って帰ってくるんじゃないかと、誰もが梨夏さんの死を受け入れられてないのじゃないだろうか?


 緩い坂道を、俺達は他愛も無いは話をしながら歩いて帰る。振り向けば、まだ、おやじさんはしゃがんで手を合わせている。
 梨夏さんの言っていた通り、いや、それ以上におやじさんの悲しみの深さを思い知らされる。


 奏海が嬉しそうに、モーニングにトマトを入れた話をする。俺は、ちらっと睨むが、怒っているわけじゃない、俺の事を意識しながら作ってくれている事が、本当は嬉しい。

「奏海らしさがあって、俺は好きだけどな。別に、梨夏さんと全てが同じじゃなくていいんじゃないか? 奏海は奏海の味でさ」

 俺の本当の気持だ…… 
 奏海にどこまで伝わっているかはわからないが……


 だが、そんな、些細な幸せな時間を壊してくる奴がいた。
< 149 / 175 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop