夏が残したテラス……
店の前まで来ると、入り口からこっちに向かって突進してくる奴がいる。

 げっ…… 
 まだ、居たのか。

 まあ、そろそろ決着つけなきゃならないな。
 時間もあまりない。


 俺は、まとわりついくる由梨華に、来週大内の代表に会う事を伝えた。由梨華は、ころりと表情を変え、帰ってくれた。
 由梨華には悪いと思うが、きっと、縁談の話がまとまると思っているに違いない。

 でも、これ以上、由梨華に奏海とのテラスの時間を邪魔されたくない。


 俺が、いつものようにテラスに出ると、奏海がコーヒーを持ってきた。

「また、大阪に行くの?」
 
 さっきの由梨華の話を聞いていたのか……


「ああ、忙しくてなぁ」

「そう…… 週末は戻ってくる?」

 珍しく、奏海が心配そうな顔を俺に向けた。
 俺は、週末のダイビングスクールの事を心配しているのだろうと思った。

「ああ、勿論。店の事は大丈夫だ。心配するな」


「う、うん……」

 だが、奏海の返事の切れが悪い……


 そうか!
 土産の事か?

 俺は、ポケットから小さな袋を出した。


「えっ。なに?」

 だけど、奏海はぽかんと間抜けな顔で俺を見上げている。

「おみやげ買って来いって言っただろ?」

「ああ……」

 やっぱり、期待していなかったのか……


 でも、奏海は、袋からブレスレットを出すと嬉しそうな笑顔を向けた。
 そして、腕にはめた白い石のブレスレットを、海に向かってかざした。
 キラキラと海の光りに反射する。


「綺麗……」

 奏海の口から漏れた。

 そう、俺も同じ事を感じた。
 だが、ブレスレットでは無く、奏海に……

 真っ直ぐに立ち、海に向かって大きく伸ばした腕……
 海の光りが、奏海の顏を照らす。


 そろそろ、俺も限界かもしれない……

 今にも、抱きしめたくなる気持ちをぐっと押さえ、奏海を見つめた。


 そして、やっとの思いで、奏海の頭を軽くなで店へと入った。
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