夏が残したテラス……
「い、いえ、なんでもありません……」

 由梨華の声は、消え入りそうに小さくなる。

「由梨華、前にも言ったが、志賀君との縁談は正式な話になる前に無くなった。それから、会社も半分の事業を手放す事にした。もう一度、一から基盤を立て直すつもりだ……」

 代表は、企業縮小の話をまだ由梨華にしていなかったようだ。
 今まで、お嬢様で何不自由なく育ってきた由梨華には、ショックだろう……


「えっ…… 意味がわからない……」

 由梨華は、目に涙を浮かべながら、部屋を飛び出してしまった。
 何故か分からないがこのまま由梨華が引き下がる気がしない。又、奏海の所へ行くのだろうか? でも、もう奏海の気持はブレないだろう。でも、正直奏海とは合って欲しくない。


「すまないね…… 私が軽はずみに君との縁談話なんかしたものだから……」

 代表は済まなそうに頭を下げた。
 奏海を傷つけた由梨華の事は腹立たしいが、代表の事はそれほど嫌いではない。むしろ、これからはいい関係になれそうだ。


「いえ、私の方こそ申し訳ありません」

 俺は、頭を下げた。

 すると、代表は、ニヤリとして俺を見た。

「あの人に、よろしく」


 俺は、驚いて代表の顔を見ると、顔がか―っと熱くなった。

 でも、俺も負けない。

「ええ。一生守っていくつもりなので」

 俺は、赤くなった顔を引き締めた。


「ははっ。参ったな」

 代表は、片手で頭を抱えて笑った。
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