夏が残したテラス……
夏も終わり、最近はリゾートホテルでの仕事が多くなってきた。

しかし、忙しさは益して近くにいても、なかなか、奏海とゆっくり会う時間が作れない。それでも、一目奏海の顔が見たくて、疲れ切った体のまま店へと顔を出す。

 いつもと変わらない、綺麗な笑顔を向けられれば、俺の疲れもすぐに癒される。
本当は奏海に触れたくたまらないが、夜は、いつもおやじさんが店にいるから仕方ない。

 でも、もう少しだ。リゾートホテルが完成するまでだ。俺は覚悟を決め、また、仕事に取り掛かる。


 勇太との打ち合わせも多くなり、ダイブショップへの手伝いが難しくなっている事が気がかりだった。シーズンオフの今なら、なんとかなるだろう……


 リゾートホテルの課題も、冬場の売り上げをどう伸ばしていくかだ。雪が降るほどの寒さは無い地域だが、だからと言って海で泳げる程では無い。やはり、温泉と温水プールの充実だ。

 だが、昔のホテルのゆったり感を無くしたら何の意味も無い。

 それで考えたのが、テラス側の半分を昔のホテルを再現して、ラグジュアリーとする事にし、一般客は入れない客室とラウンジを作る事にした。きっと、この海を好きな客は、落ち着いた時間を求めて冬でも利用してくれるはずだ。

 そして、半分は、ファミリーや団体向けの施設を充実させる。ホテルで飽きずに過ごせるよう、あらゆる方法をチームで考えだした。だが、それでも、冬場の海で泳げない時期を乗り切るのに、もう一歩なにか欲しい


「なあ、海里。思い切って、船買ったらどうだ?」

「船?」

船と言ったって色々ある。


「ちょっと大き目の客船で、ディナーやエンターテイメントをしたらどうだ? サンセットなんか最高じゃないか? 年中使えるしさ」

 勇太が、頭を抱える俺に言った。


「うーん。かなりコストかかるな?」


「まあな、でも、ホテルでそこまで出来りゃあ、売りになりそうだけどな。年中ハワイのイメージのままのクルーズなんてどうよ?」

「年中ハワイ……」

 その言葉が俺には、しっくりきた。
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