夏が残したテラス……
「えっ?」

 俺は、彼女が声を掛けてきたことと、俺のサーフィンを見ていた事に驚いた。

「この前の、波乗り。ここら辺の人達と違う気がしたから……」

「見ていたのか?」

 俺は、確かに嬉しいと感じた。


「別にそういう訳じゃ…… たまたま、目に入っただけ……」

「習ったのは、ハワイ。日本ではここが初めて……」

「ハワイ!?」

 彼女は驚いて目を見開いた。


「そんなに驚く事か?」


「私、ハワイなんて行った事ないわよ。波は、ここより高いの? 難しい?」

 彼女は、キラキラと輝かせた目を俺に向けた。


「まあな…… でも、俺はこの海の方が好きだ」


「そう? ここは特別だからね」

「特別?」

「うん、ママが言ってた」


「そうか…… 特別か……」

 俺は、遠い海を見つめた。


「ねぇ、お兄さん名前聞いていい?」

「俺か…… 志賀海里」


「私は、奏海。奏でる海って書くの。海里さんは海の里?」

「ああ……」

「なんだか、少し似てるね……」

 彼女の表情が、初めて和らいだ気がした。


「さっきは、助けてくれてありがとう……」

 本当に自分でも驚く。

 こんなに、素直に人に礼など言った事があっただろうか?
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