夏が残したテラス……
そっと離れた唇は、私を強く抱きしめたまま耳もとで優しくささやいた。


「大丈夫だ…… 嵐は何も持っていかない…… 俺はちゃんとここにいる……」



 その言葉を聞いた途端、安堵と我慢してきたものが込み上げて、私は一気に声を出して泣き出してしまった。次から次へと出てくる涙を止める事が出来ず、子供のように声を出して泣いた。


 海里さんは、泣き叫ぶ私をギュッと抱きしめていてくれた。その胸の暖かさが身体全部を包み込み安心と、溢れる思いに私は益々泣き出した。


「いくら泣いてもいい…… 悲しみも涙も、俺が全部背負ってやる……」


 嵐の中、怖くて不安で、海里さんはもう来ないんじゃないかって思っていた。
 でも、海里さんは、来てくれた。
 海里さんが居る。

 海里さんの片方の手が、背中からそっと離れ私の手を包んだ。
 暖かい手…… 
 この手の感覚に覚えがある…… 
 ママが死んだ時、震える手の甲を包んでくれた手…… 
 海里さんだったんだ……


 私は、海里さんの胸から顔を上げた。


 海里さんの目と重なった。
 お互いの頬を、激しい雨が叩きつけている。


「中に入ろう……」

 海里さんが、私の顔を確認するように見つめながら言った。

 私はコクリと肯いた。
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